鮫と音楽と健康と

チコと鮫のちらし皆さんは鮫の映画をひとつあげてくださいと聞かれれば、ほとんどの方がスピルバーグ監督の「ジョーズ」(1975)を思い出すのではないでしょうか?「ジョーズ」は鮫の恐怖を描いた映画ですが、では、鮫と少年の友情を描いた美しい佳作があったのをご存知でしょうか?
私個人は、30年近く前(1970年代です)に当時としては大型の18インチほどのテレビで、"小森のおばちゃま"の解説入りの映画番組で見た記憶があります。淀川さんの解説だったかもしれませんが、映画に使われている音楽をえらく誉めていました。私が観た記憶にしても、まだ今ほど観光化されていない美しいタヒチの映像と水中で遊ぶ鮫と少年の映像ぐらいですが、ハワイアン風の音楽はすばらしく、すぐに秋葉原の石丸レコードでそのサントラ盤レコードを買い求めました。レコードがその当時で2000円もして、かなりの出費でしたが、それに見合う素晴らしい音楽で、テープに起こして何度も聞いていました。
少し個人的な話しになってしまいましたが、今回は鮫を題材にした「チコと鮫」映画音楽と、番外で鮫の意外な効用を紹介します。

映画「チコと鮫」

映画監督のファルコ・クイリチ1962年制作のイタリア映画「チコと鮫」(原題:Ti-Koyo e il suo pescecane)、監督はドキュメンタリーを得意としたファルコ・クイリチです。他にヒット作が少ない地味な監督ですが、南太平洋を舞台としたドキュメンタリーでは先駆的な作家です。代表作に海洋ドキュメンタリー「最後の楽園」があります。物語は俗化される以前のタヒチを舞台にした、やや文明批判色味付けをした展開になっています。
撮影場所はタヒチでも最も美しい島といわれるボラボラ島です。この島は特に欧米人に人気が高いようで、映画では「ハリケーン」の舞台になっていますし、ウッディ・アレンの珍しいミュージカル映画「世界中に I Love You」では、ボラボラ島を巧みに女性の口説きの小道具で使っています。
主役の冴えないウッディ・アレンが演じる中年男が、ジュリア・ロバーツ演じる憧れの美女を口説くとき、彼女が通うセラピーでボラボラ島への憧れを話しているのを知り、知りもしない島を自分も大好きだと語り、まんまと彼女を手中に収める落ちがあります。それくらい、ボラボラという響きは、文明社会にない、自然回帰の憧れの意味合いがあるようです。ボラボラ島全景
さて、話しをかいつまんで紹介しますと、タヒチの人々が漁業を中心に生活を営み、椰子の実とカヌーがまだ生活に溶け込んでいる時代。画家ゴーギャンが愛した南の楽園そのままの生活がこの映画の中心です。島の少年チコが島では人食い鮫と恐れられる鮫の赤ん坊が浅瀬に迷い込んだのを見つけて飼い慣らします。
やがて大きくなって飼えなくなったマニドゥと名づけられた鮫は海に帰されますが、10年の歳月を経て海で再会します。しかし観光化のため鮫を排除しようとする島の人々と、マニドゥと遊び、昔のままの生活を続けるチコとの間には様々な軋轢が生まれます。チコの恋人も加わり、鮫との友情、文明化との対比も含めて、物語は哀愁のある結末を迎えます。(*最後に紹介します。)
作品の製作に当たり、鮫の危険を無くすため、主演のイタチ鮫(人食い鮫)は2年間飼い慣らされ、撮影も1年にわたりました。鮫も数十センチの小さいものから5メートル近くになるものまで何種類も用意され、「ジョーズ」のような機械仕掛けのトリックは一切使われず、島の住民を使って、ドキュメンタリーの手法のように、できるだけ真実に近い世界にこだわりました。。

「チコと鮫」のサントラ盤さて、音楽の方はフランチェスコ・デ・マージ作曲、全編ハワイアン風のストリングスとスティール・ギターを駆使した美しい旋律が演奏されています。音楽の使われ方としては、メインテーマを何度もそのアレンジを替えて繰り返されるオーソドックスな手法が取られていますが、主題がとても美しいメロディーのため、「癒しの音楽」と言っていいくらい聴いていてくつろげます。
作曲家フランチェスコは1930年生まれの大御所ですが、「チコと鮫」の担当時は31歳、脂の乗っている時期でした。彼はいわゆるヒットメーカータイプの作曲家ではなく、ドラマの本質を捉え、映像と噛み合うようにじっくり取り込むタイプです。そのため作品も多くはなく、イタリア映画を中心に年1〜2本のペースで作曲しています。
本来はクラシック畑の人なので、ローマ交響楽団の常任指揮者などでも活躍していました。「チコと鮫」のアルバムはレコード化された後、すぐに廃盤となり、CDではイタリア版のみ発売されています。
余談ですが、映画の方は1979年に「少年と鮫」というタイトルでリメイクされています。その時の監督はフランク・C・クラーク、音楽はなんとフランスを代表する映画作曲家フランシス・レイが担当しています。

サメは人の役にたつ?

栄養補助食品−鮫の軟骨鮫料理で思い付くのは中華の高級料理「鱶鰭スープ」、味も然ることながら「ふかひれ」には様々な効用があることが知られています。
ご存知のように鮫はとても強い生命力を持っています。
一例として、強力な発癌剤を含んだ水槽で鮫を8年間も飼育した結果、鮫には一片の癌性腫瘍も見つからなかったという報告がされています。このように鮫は癌を抑制する物質を有しているとして早くから研究材料になっていました。鮫の体はすべて軟骨でできています。通常の生物は軟骨に血管が無いため、軟骨だけでは体の組織に栄養がわたらず組織は死滅します。しかし、鮫はからだに大量に含まれる水分によって栄養補給を行っています。一方、癌は少し大きくなると、「新生血管造成因子」というものを出して新しい血管を作り、そこから栄養と酸素を補給し増殖します。しかし鮫には血管がないため、この「新生血管造成因子」を阻害する物質があると考えられるのです。
そこで鮫の軟骨を使い、新生血管の増殖を押さえ、癌細胞の破壊を行う方法はないかと医学者は考えたのです。実際のネズミを使った実験では、鮫の軟骨の成分を与えたネズミに癌の増殖を押さえたという結果が出ました。何も与えないネズミのグループと比較して約35%の癌の抑制があったという結果も出ています。さらに臨床実験では、末期癌患者8人中7人の腫瘍が30〜100%縮小した報告もあげられています。
その他の効果としては、鎮痛作用があります。ガンの痛みを押さえるのにモルヒネ等の麻薬を使いますが、これは免疫力を低下させるので逆にガンが増殖してしまう危険があります。サメの軟骨を投与すると1ヶ月から3ヶ月で痛みがおさまった、という臨床結果がでています。また肌荒れ、皮膚炎、心臓病、心筋梗塞、腎炎や肝機能改善といった効果も確認されています。このようなすばらしい治癒能力から、米国ではFDA(アメリカ食品医薬品局)が治療実験薬として公式に使用を認められました。
では実際に鮫の軟骨を手に入れるにはどうすれば良いのでしょうか?日本では健康食品扱いになり、薬局等で入手が可能です。ちなみに、「サメ軟骨粒」という栄養補助食品が、インターネットの「楽天市場」で8800円くらいから入手可能です。ただし、効果は試していないので不明ですが。

*チコはマニドゥと恋人とともに、人間と鮫が共存できる平和な島を求めて、タヒチから去ります。 (nao)

Homeへ