金持ちだったシャーロック・ホームズ

シャーロック・ホームズ肖像画シャーロック・ホームズは、1854年1月6日(誕生日に関しては諸説がある)、英国の北部ヨークシャー地方の寒村に生まれました。先祖代々、この地方の地主であり、それなりに裕福に育ったと言われています。 19世紀は、英国がヴィクトリア女王に率いられて世界各地を植民地化した絶頂期です。文盲が多かった社会にも1870年の教育法の制定により、労働階級へも普通教育の道が開かれていきました。ホームズは幸いにも優秀な家庭教師に就くことができ、(そのうち1人は宿敵モリアティ教授と考えられる)、高等教育ではオックスフォードかケンブリッジに入学しました(どちらの大学を卒業したかはいまだ結論が出ていない)。学生時代、ホームズは鋭い観察力と推察力から「グロリア・スコット号事件」に登場するトレバー老人の隠された過去を数々推理し、その驚異的な才能を認められ職業探偵になることを勧められました。これより名探偵ホームズの誕生となるのですが、彼は探偵業以外にもいくつかの素人離れした才能を持っていました。

ホームズの所得ビクトリア王朝時代

ホームズの才能がいくらのお金を稼ぐかは、大いに興味あるところですが、当時の探偵業の料金体系が定かでないので、具体的な年収はわかりません。まして、ホームズは事件そのものが報酬であると考えているため、貧しい人からはお金を取りませんでした。では、どのように生計を立てていたか、年収はいくらぐらいだったか少し推理してみます。 当時できたばかりの警察制度においては、「警察税」と言われる庶民の税金により予算を組み立てていたため、警官の給与は少なく、待遇も良くありませんでした。そこで、個人負担で警官を私的目的に雇えることも許され、逆に難事件では外部の探偵に依頼することもしばしばありました。ホームズも例外にもれず、「バスカヴィル家の犬」の事件ではレストレード警部を雇い、「緋色の研究」ではグレグソン警部から事件の依頼を受けています。スコットランド・ヤードからの収入も彼の所得の一部ですが、それだけでは満足な生活を送れません。ホームズ最大の収入源は、実は貴族からの事件依頼でした。例えば、「ボヘミアの醜聞」ではボヘミア王から 1000ポンド(現在の2000万以上の価値)、また、「プライオリ学校」事件解決の折りには12000ポンド(現在の2億5千万近い価値)を依頼主の好意から受け取りました。以後ホームズは経済的に困ることはなくなりましたが、退屈という事件なき時間の過ごし方に困りました。

ホームズの趣味

ホームズの遺品さて、ホームズが裕福であったことはおわかりいただけたと思いますが、彼には食生活以上にお金をつぎ込む道楽がありました。ひとつは煙草とコカインで、感性を鋭利にする、事件がないときに気を紛らすなどの理由でしばしば吸っていました。煙草は1日に1オンス(28グラム)を吸う、ヘビースモーカーで部屋中いつも煙りだらけであったと想像できます。ただし、パイプは、ホームズというとすぐに思い浮かぶ、トレードマークの先が曲がったパイプではなく、クレイ・パイプという柄のまっすぐなものを使っていたようです。なぜなら曲がったパイプはホームズが活躍した時代にはまだなかったからです。(ちなみに帽子は、前後につばのついたディアストーカーというタイプのものが有名ですが、シルク・ハットを愛用していました。)コカインは現在なら明らかに犯罪ですが、当時はコカインの毒性が社会的にそれほど認識されていませんでした。エジソン、イプセン、フロイトなど当時の知識人が吸っていた記録が残っているように、コカインは害よりも強壮効果があると信じられていました。
もうひとつは、今回のテーマとなるヴァイオリンです。ホームズは今日1億円以上の値が付き、19世紀の英国でも当時の物価で1000万円はしたであろう名器ストラディバリウスをユダヤ人の質屋からわずか55シリング(5〜6万円位)で入手しました。著名な音楽家が多いユダヤ人がストラディバリウスの価値を見分けられなかったとは信じがたい話しですが、ホームズはこの音色の美しい楽器で、メンデルスゾーンや自作の即興曲をしばしば演奏しました。「マザリンの宝石」事件では、ホームズのヴァイオリンの腕前を事件解決にうまく使っています。犯人をおびき寄せるため、自室でオッフェンバッハの名曲「ヴェニスの舟歌」を蓄音機でかけて、自分がヴァイオリンを引いているように見せかけ、その間に蝋人形と入れ替わって犯人を捕らえています。


ホームズの音楽レベル


アイリーン・アドラーホームズの音楽に対する造詣は、彼が出向いたコンサートの記録からもわかります。天才ヴァイオリニスト、サラサーテの演奏を聴きにいったり、ワグナーの歌劇を観に行ったりしています。加えて、オルランド・ディ・ラッソという、余り聞かれることのないヨーロッパにおける15世紀の音楽家の声楽に関する研究論文を著しています。
最後に、ホームズが唯一心を惹かれた女性は、オペラ歌手でした。「ボヘミアの醜聞」に登場するアイリーン・アドラーはボヘミア王の愛人でしたが、王の結婚を機に、2人の秘密写真を取り返すためにホームズと駆け引きが始まります。何度かアイリーンに出し抜かれたホームズは、彼女の聡明さと大胆不敵な行動に惹かれ、いつしか恋心を抱いていった節が見られます。結局ホームズの片思いに終わりますが、ホームズが女性を誉めたのはこれ1回限りでした。 (nao)

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